第三者損害・近隣・テナント・石綿・廃棄物

外部への責任は法律で決まります。契約書で決めるのは、当事者のどちらが最終的に負担するかと、誰が窓口になるかです。

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請負人の帰責事由がある場合しか書いていない第三者損害の条項では、工事に通常伴う騒音・振動による損害が空白になります。

このページの要点

  • 第三者損害は、工事に通常伴う騒音・振動、注文者の指示による施工、既存部分の状態、テナントの休業による損害の負担と求償の有無まで書く。
  • 注文者が建物の所有者でなければ、着手前の承諾書、所有者指定業者の範囲、承諾が得られない場合の中止と費用を定める。
  • 解体等工事の石綿の事前調査は元請業者の義務で、発注者は調査費用を適正に負担して協力する(大気汚染防止法18条の15)。
  • 建設廃棄物は元請業者が排出事業者。下請が自ら運ぶのは書面の請負契約で定めるなどの要件を満たす場合に限る。

結論:外部への責任と、当事者間の負担を二層に分けて書く

工事は、注文者と請負人の二人だけでは完結しません。騒音や振動に悩まされる近隣、営業を続けながら工事を受け入れるテナント、建物の貸主や管理組合、石綿の規制や廃棄物の処理を所管する行政。工事の契約書には、こうした第三者との関係を、当事者の間でどう分担するかを書いておく必要があります。建設業法19条1項9号は、工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定めを記載事項としています。

この分野の条項を考えるときは、二つの層を分けることが出発点です。一つ目は外部への責任で、第三者が誰に請求できるかは、民法の不法行為の規定(709条、715条、716条、717条など)で決まります。民法716条本文は、注文者は請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わないとしており(注文又は指図に過失があったときは別です。同条ただし書)、近隣からの請求は、まず請負人に向かうのが通常です。二つ目は当事者間の負担で、外部に賠償した後、最終的に注文者と請負人のどちらがいくら負担するかを、契約で決めます。契約書に書けるのは主にこの二つ目の層です。

このページでは、第三者損害の負担、テナント・貸主・近隣への対応と貸主の承諾、石綿の事前調査、建設工事の廃棄物、工事に伴う残置物の扱い、墓地や隣地との調整を、工事の請負契約の側面から整理します。工事の費用が増える原因になる既存部分の扱いは工事内容の特定と既存部分のリスク、保険は工期遅延の損害金・責任上限・保険で扱います。

外部への責任と当事者間の負担

層決めるもの主な内容
外部への責任民法の不法行為の規定請負人や作業員の過失による損害(709条・715条)、注文者は原則として責任を負わない(716条本文)、建物などの工作物の設置・保存の瑕疵による損害(717条)
当事者間の負担請負契約の第三者損害の条項外部に賠償した後、注文者と請負人のどちらが最終的にいくら負担するか。求償の有無。窓口と対応の分担
保険加入している賠償責任保険の約款外部への賠償のうち保険で補填される範囲。工事に通常伴う騒音・振動は対象外とされることが多い

契約書で外部への責任そのものを変えることはできません。契約書に書けるのは、当事者間の負担と、窓口・対応の分担です。

第三者損害の負担:請負人の帰責事由がない損害を空白にしない

改修工事の草案では、第三者損害の条項が「乙の責めに帰すべき事由により第三者に損害を与えたときは、乙がその賠償の責任を負う」という一文だけでした。これでは、請負人に過失がなくても工事に通常伴う騒音・振動・粉じんで近隣の営業に影響が出た場合、地盤や既存建物の状態に起因して隣地に影響が出た場合、注文者の指図に従って施工した結果として損害が出た場合の負担が、空白のままです。9号は、こうした場面も含めて賠償金の負担を定めておくことを求めていると事務所は考えています。

条文例

第○条(第三者損害)

  1. 工事の施工により第三者に損害を及ぼしたときは、乙がその損害を賠償する。ただし、甲の責めに帰すべき事由により生じた損害については、甲が負担する。
  2. 前項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる損害は、乙の責めに帰すべき事由による場合を除き、甲がその責任と費用において解決する。この場合において、甲が当該損害を賠償したときも、甲は乙に求償しない。(1)工事の施工に通常伴う騒音、振動、粉じん、臭気、通行の制限等による損害(2)甲又は甲の工事担当者の指示に従って施工したことによる損害(3)既存部分の瑕疵又は状態に起因する損害(4)テナントの休業又は賃料の減額に伴う損害
  3. 騒音規制法又は振動規制法に定める特定建設作業を伴うときは、乙がその届出を行い、甲はこれに協力する。

2項の「求償しない」という一文が要です。外部に対して注文者が先に対応した場合に、後から請負人に請求が回ってこないことを明らかにします。

3項の特定建設作業の届出は、騒音規制法14条1項と振動規制法14条1項が、指定地域内において特定建設作業を伴う建設工事を施工しようとする者に、作業の開始の日の7日前までに市町村長への届出を求めているものです。届出の義務を負うのは施工しようとする者なので、請負人の役割として書き、注文者は必要な情報の提供に協力する、という分担にしています。

2項2号の「甲の指示に従って施工したことによる損害」を注文者の負担とするのは、民法716条ただし書の考え方とも通じます。同条ただし書は、注文又は指図について注文者に過失があったときは、注文者も第三者に対して責任を負うとしています。たとえば、近隣への影響が大きいと請負人が説明したにもかかわらず、注文者が工期を優先して夜間の作業や特定の工法を指示した場合、その結果として生じた損害の最終的な負担を注文者に置くのは自然です。ただし、請負人が指示の問題点を説明した記録がなければ、後で「指示した覚えはない」「危険だとは聞いていない」と言われかねません。指示を受けた日時と内容、請負人が伝えた懸念を書面やメールで残しておくことが、この条項を働かせる前提になります。

テナント・貸主・近隣への対応と、貸主の承諾

テナントが入ったまま施工するビルの改修では、テナントへの説明、作業日程の調整、苦情の受付を誰が担うかが、契約書の重要な論点になります。草案に「テナント対応は甲と協力して誠意をもって対応する」とだけ書かれていると、請負人の役割が協力なのか主体なのかが分かりません。改訂では、テナント・貸主・近隣への説明、日程の調整、苦情の受付は甲(注文者)の責任で行い、乙(請負人)は技術的な説明に協力する、と役割を分けました。

注文者が建物の所有者でない場合は、貸主の承諾が論点に加わります。依頼者から「事務所は賃貸契約です」という回答を受けた案件では、注文者が建物の所有者として貸しているのか、注文者自身が借りているのかの両方に読めました。注文者が借主であれば、貸主の承諾、テナントビルの工事区分(建物の基本部分を貸主が施工するA工事、借主の費用で貸主指定の業者が施工するB工事、借主が自ら業者を選んで施工するC工事、といった区分)、付合(民法242条)によって内装が貸主の所有になること、借主が退去したときに未払代金を回収する手段がなくなること、という論点が出てきます。改訂では、どちらの場合にも働くように条項を書きました。

条文例

第○条(貸主の承諾等)

  1. 甲が本件建物の所有者でないときは、甲は、着手前に、本件工事について所有者の承諾を得て、承諾書の写しを乙に交付する。
  2. 本件工事のうち所有者が指定する業者が施工すべき部分があるときは、甲は、本契約の締結前にその範囲を乙に通知する。
  3. 所有者の承諾が得られないとき、又は所有者から工事の中止若しくは変更を求められたときは、乙は工事を中止し、又は変更することができ、これに伴う費用は甲の負担とする。
  4. 所有者、管理者又はテナントからの指示、要望及び苦情は、甲が窓口となって対応する。

石綿(アスベスト)の事前調査:「必要があれば」ではない

建物を解体・改造・補修する工事では、石綿の事前調査が問題になります。大気汚染防止法18条の15第1項は、建築物等を解体し、改造し、又は補修する作業を伴う建設工事(解体等工事)の元請業者に、その工事が特定工事(石綿を含む特定建築材料が使われている建築物等の解体等工事)に該当するか否かの調査を、設計図書その他の書面による調査、目視による調査その他の環境省令で定める方法によって行い、発注者に対して調査の結果などを記載した書面を交付して説明することを求めています。ここでいう元請業者は、発注者から直接解体等工事を請け負った者です。

依頼者から「石綿の調査は必要があれば実施している」と回答を受けたことがありますが、解体等工事に当たる以上、調査は「必要があれば」ではなく、行わなければならないものです。調査は環境省令で定める方法による必要があり、現在は一定の資格を持つ者による調査が求められています。元請業者は調査の記録を作成・保存し(同条3項)、調査の結果を環境省令で定めるところにより都道府県知事に報告します(同条6項)。

費用の負担について、同条2項は、解体等工事の発注者は、元請業者が行う調査に要する費用を適正に負担することその他必要な措置を講ずることにより、調査に協力しなければならないと定めています。また、石綿を多量に発生させるおそれのある特定建築材料に係る作業を伴う届出対象特定工事では、発注者が作業の開始の日の14日前までに都道府県知事に届け出なければなりません(18条の17第1項)。

REV.事務所の改訂例 石綿の条項

1調査の実施

改訂前必要があると乙が判断したときは、石綿の調査を行う。
改訂後乙は、大気汚染防止法に定める方法により事前調査を行い、その結果等を記載した書面を甲に交付して説明する。

理由解体等工事に当たれば調査は義務。「必要があれば」と書くと義務の範囲を誤解させる。

2調査費用

改訂前(定めなし)
改訂後調査に要する費用は、大気汚染防止法第18条の15第2項に従い甲が負担し、請負代金と区分して見積書に記載する。

理由発注者の費用負担の協力義務を契約に反映し、見積りで区分して示す。

3含有が判明したとき

改訂前(定めなし)
改訂後石綿含有建材が判明したときの除去、養生、処理及び工事の中止に要する費用並びに工期の延長は、甲の負担とする。届出対象特定工事の届出は甲が行い、乙は必要な情報を提供する。

理由費用増と工期延長の負担、届出の主体を明確にする。

建設工事の廃棄物と、工事に伴う残置物

建設工事に伴って生じる廃棄物について、廃棄物処理法21条の3第1項は、建設工事が数次の請負によって行われる場合には、注文者から直接建設工事を請け負った建設業を営む者(元請業者)を、廃棄物を排出した事業者として同法を適用すると定めています。この「建設業を営む者」は建設業の許可の有無を問わない概念なので、許可を持たない事業者でも、施主から直接請け負えば元請業者として排出事業者の責任を負います。

下請負人が廃棄物を「持ち帰る」運用は、建設工事の現場ではよく見られますが、下請負人が自ら運搬できるのは、同条3項の要件を満たす場合に限られます。同項は、環境省令で定める廃棄物について、建設工事に係る書面による請負契約で定めるところにより下請負人が自らその運搬を行う場合に、下請負人を事業者とみなすとしています。要件を満たさないまま下請負人が運べば、下請負人は許可のない収集運搬を、元請業者は処理の委託に関する基準に反した委託をしたと評価されるおそれがあります。協力会社への発注の実務について「廃材は施工業者が持ち帰ることが多く、運用は統一されていない」という回答を受けた案件では、元請業者に当たる案件の運用を、許可業者への書面による委託、下請負人が自ら運ぶ場合の書面への記載、それ以外の持ち帰りの禁止、の三点に整理しました。

原状回復の工事などで、前の入居者の家財などの残置物の撤去を頼まれることもあります。工事の請負の側面から注意したいのは二点です。一つは、元請先から「処分してよい」と指示されても、それだけで処分が適法になるわけではないことです。所有者の意思を確認しないまま他人の物を処分すれば、後で所有者から責任を問われるおそれがあります。もう一つは、入居者の家財は建設工事に伴う廃棄物ではなく原則として一般廃棄物に当たり、産業廃棄物の収集運搬業の許可では運べないことです。

条文例

第○条(廃棄物及び残置物)

  1. 甲が建設工事の元請業者に当たる場合、甲は、建設工事に伴い生ずる廃棄物の運搬及び処分を、許可を受けた業者に書面で委託し、管理票を交付する。
  2. 乙が自ら廃棄物を運搬するのは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第21条の3第3項の要件を満たす場合に限り、この場合は、個別契約の書面に乙が自ら運搬する旨並びに廃棄物の種類及び数量を記載する。
  3. 甲が乙に残置物の処分を指示するのは、甲が元請先から書面等により処分の依頼を受け、所有権の放棄その他処分の権限を確認した場合に限るものとし、甲はその記録を保存する。残置物の搬出に一般廃棄物の収集運搬の許可が必要となる場合があることを、甲乙は確認する。

協力会社に工事を出す側の基本契約の改訂例です。残置物の扱いそのもの(賃貸借の終了時の明渡しや所有権の確認)は、工事の契約とは別に整理が要ります。

墓地や隣地との調整:注文者の責任を表明してもらう

工事の場所に固有の権利関係があるときは、その確認と調整を誰が担うかを契約書に書いておきます。墓石の建立工事の契約書では、墓地の使用権、墓地管理者の承諾、指定石材店の規則との抵触の確認、改葬の許可、閉眼・開眼の供養の手配を注文者の責任と費用で行うこととし、注文者にこれらの点を表明保証してもらいました。表明に反したことで工事が遅れたり費用が増えたりしたときは注文者の負担とし、隣接する墓所の使用者に損害を与えた場合の扱いも明示しています。

境界にある塀を作り直す工事のように、隣地の所有者が関わる場合は、工事の請負契約とは別に、関係者全員の合意書を作ることがあります。土地の売買を控えた案件で、現在の所有者・購入予定者・隣地の所有者が加わる合意書を作ったときは、既存の塀の撤去は売買前に現在の所有者が費用を負担して行う、新しい塀は売買後に新しい所有者が費用を負担して設置する、新しい塀は対象地の内側に積んで隣地にはみ出さない、塀の所有権は対象地の所有者に属する、隣地の所有者は費用を負担せず補償も求めない、工事による損害は工事を行った者が負う、という内容を盛り込みました。誰が工事を発注し、誰が費用を負担し、誰が完成物を所有するかを一枚にまとめておくと、工事の請負契約の当事者も明確になります(建設業法19条の記載事項)。

ご相談と回答 近隣・テナント・石綿・廃棄物

近隣から騒音の苦情と補償の要求が来ました。誰が払うのですか。

外部に対しては、まず施工した請負人に請求が向かうのが通常です。当事者間では、契約書の第三者損害の条項で負担を決めます。工事に通常伴う騒音・振動による損害は、請負人の帰責事由がない限り注文者が解決し求償しない、と定めておけば、最終的な負担者がはっきりします。

アスベスト調査の費用は誰が払うのですか。

調査を行う義務は元請業者にありますが、発注者は調査に要する費用を適正に負担して協力しなければなりません(大気汚染防止法18条の15第2項)。契約書では調査費用を注文者の負担とし、見積書で請負代金と区分して示しておきます。

下請が廃材を持ち帰るのは違法ですか。

下請負人が自ら運搬できるのは、環境省令で定める廃棄物について、書面による請負契約で定めるところにより運搬する場合(廃棄物処理法21条の3第3項)などに限られます。要件を満たさない持ち帰りは、下請・元請の双方が責任を問われるおそれがあります。

ヒヤリングと、起きがちなこと

ヒヤリング点検表 第三者・環境規制

  1. テナントが営業を続けたまま施工するか。近隣に店舗や住宅が密集しているか。第三者損害の負担と、テナント・近隣対応の窓口を決める。
  2. 注文者は建物の所有者か、賃借人か。工事区分の取決めはあるか。貸主の承諾の条項と、所有者指定業者の範囲の通知を書く。
  3. 解体・改造・補修を伴うか。石綿の事前調査は誰がどの方法で行うか。調査・説明・費用負担・届出の分担を決める。
  4. 廃材は誰が運び、どこに処分しているか。排出事業者の立場と、下請が自ら運ぶ場合の要件を確認する。
  5. 残置物の撤去を頼まれることはあるか。所有者の意思はどう確認しているか。処分の指示の条件と記録の保存を定める。
  6. 特定建設作業に当たる作業はあるか。騒音規制法・振動規制法の届出の分担を書く。

よくあるご質問

工事の騒音で近隣から補償を求められたら、誰が負担しますか?

外部に対しては、民法716条により注文者は原則として責任を負わないため、まず請負人に請求が向かうのが通常です。当事者間の最終的な負担は契約で決めます。工事に通常伴う騒音・振動による損害は、請負人の帰責事由がない限り注文者が解決し、請負人に求償しないと定めておく方法があります。

テナントの休業補償を、後から工事会社に求償されることはありますか?

契約書に定めがなければ、当事者間の負担をめぐって求償の主張を受ける余地があります。テナントの休業や賃料の減額に伴う損害は、請負人の帰責事由がない限り注文者がその責任と費用で解決し、賠償しても請負人に求償しない、と第三者損害の条項に書いておきます。

借りている事務所の内装工事を請け負うとき、何に注意すべきですか?

注文者が建物の所有者でないときは、着手前に所有者の承諾を得て承諾書の写しを受け取ること、所有者指定業者の施工範囲を契約前に通知してもらうこと、承諾が得られない場合の中止・変更と費用負担、所有者や管理者からの苦情の窓口を注文者とすることを、契約書に書いておきます。

アスベストの事前調査の費用は、施主に請求できますか?

大気汚染防止法18条の15第2項は、解体等工事の発注者に、元請業者が行う調査に要する費用を適正に負担するなどして調査に協力することを求めています。契約書で調査費用を発注者の負担とし、見積書で請負代金と区分して記載しておくのが基本です。

下請業者が工事の廃材を持ち帰ってもよいですか?

建設工事の廃棄物は原則として元請業者が排出事業者です(廃棄物処理法21条の3第1項)。下請負人が自ら運搬できるのは、環境省令で定める廃棄物について書面による請負契約で定めるところにより運搬する場合などに限られます(同条3項)。要件を満たさない持ち帰りは避けます。

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