このページの要点
- 完成通知から一定日数内の検査と結果通知、期限内に何もなければ合格とみなす定めを置く。19条1項11号の「時期」の記載にもなる。
- 合格後一定期間内に引渡書を交付し、交付がなければ期間満了で引渡しとみなす。承諾のない使用開始も引渡しとみなす。
- 使用に支障のない軽微な不適合は引渡しを拒む理由にならず、引渡し後に修補する、と書く。
- 部分引渡しの実務があれば、部分ごとの検査・引渡し・所有権と危険の移転・保証期間の起算・代金を定める。
結論:代金の回収を、注文者の「受領印」ひとつにかけない
工事の代金は、工事が完成し、検査に合格し、目的物を引き渡したところで支払われるのが通常の流れです。民法633条も、請負の報酬は仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければならないと定めています。だからこそ、検査と引渡しの条項は、代金の回収に直結します。検査の期限がない、引渡しの時点が注文者の行為だけで決まる、といった書き方では、注文者が検査に来ない、受領印を押さない、という行動だけで支払を先送りできてしまいます。
事務所がレビューした改修工事の草案では、竣工払を「引渡し完了後30日以内」とし、引渡しは「甲が引渡書に受領印を押した時」、検査には期限がなく、注文者の支払遅延の利息の定めもない、という形になっていました。全額を竣工時に受け取る約定だったので、請負人は工事代金の全額を立て替えて施工し、最後の受領印が押されるまで1円も回収できない構造です。注文者が検査を延ばす、受領印を押さない、支払が遅れても民法の法定利率しか請求できない、という三か所で、支払を遅らせる余地がありました。
このページでは、検査の期限とみなし合格、引渡しのみなし、軽微な不適合と引渡し拒否、部分引渡し、所有権の移転時期、業種ごとの書き分けを見ていきます。支払の時期や遅延損害金そのものは代金の支払設計、引渡し後の不具合の扱いは工事の契約不適合責任で扱います。
検査の期限とみなし合格:建設業法19条1項11号の「時期」
建設業法19条1項11号は、注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の「時期及び方法」並びに引渡しの時期を、契約書の記載事項としています。検査の方法だけを書き、完成通知から何日以内に検査をするかという時期を書いていない契約書は、11号の記載としては不十分です。
元請負人と下請負人の間には、建設業法24条の4第1項があり、元請負人は下請負人から完成の通知を受けた日から20日以内で、かつ、できる限り短い期間内に検査を完了しなければなりません。ところが、発注者(施主)と元請の間には、このような法定の期限はありません。施主から直接工事を請け負う立場では、検査の期限は契約書で決めるしかないのです。
完成から引渡しまでの流れ(改訂例)
- 完成通知乙が書面等で甲に工事の完成を通知する。
- 7日以内に検査甲の工事担当者の立会いで検査。期限内に検査も結果の通知もなければ合格とみなす。
- 不合格なら修補・再検査再検査も期間を区切って同じ扱いを準用する。
- 合格から3日以内に引渡書甲が引渡書を交付する。交付がなければ期間満了で引渡しとみなす。
- 代金の支払引渡しを起点に約定の期日までに支払う。
条文例
第○条(検査及び引渡し)
- 乙は、工事が完成したときは、書面等により甲に通知する。甲は、通知を受けた日から7日以内に、甲の工事担当者の立会いの下で完成を確認するための検査を行い、その結果を乙に書面等で通知する。
- 甲が前項の期間内に検査を行わず、又は検査の結果を通知しないときは、工事は検査に合格したものとみなす。
- 検査に合格したときは、甲は合格の日から3日以内に乙に引渡書を交付する。甲がこの期間内に引渡書を交付しないときは、期間の満了の時に引渡しがあったものとみなす。
- 検査の結果、修補を要する箇所があるときは、乙は修補を行い、前各項の規定を準用して再検査を受ける。ただし、再検査の期間は3日とする。
- 使用に支障のない軽微な不適合があることを理由として、甲は引渡しを拒むことができない。この場合、乙は引渡し後に遅滞なく修補する。
- 甲が乙の承諾なく目的物の全部又は一部の使用を開始したときは、その時に当該部分について検査に合格し、引渡しがあったものとみなす。
日数は工事の規模に合わせて調整します。「みなし」を置くときは、期限の起算点(通知を受けた日)と、通知の方法(到達を証明できる書面・メール)を明確にしておきます。
6項の「承諾のない使用開始は引渡しとみなす」という定めは、テナント在室の建物の改修や店舗の内装で特に役立ちます。工事がほぼ終わった段階で、注文者やテナントが先に使い始めてしまい、そのまま「まだ引き渡していない」として残代金の支払が止まる、ということが起きるからです。ただし、後で述べる部分使用(請負人の承諾を得て使う場合)とは区別して書く必要があります。両者を同じ条文の中で書くと、承諾を得た使用まで「引渡しとみなす」と読める矛盾が生じます。
検査と引渡しの条項を作るときは、「完成」と「引渡し」を言葉として区別しておくことも大切です。建設業法19条1項3号は「工事着手の時期及び工事完成の時期」を、11号は検査の時期・方法と「引渡しの時期」を、それぞれ記載事項にしています。工期の遅れを判断する基準を完成の時期に置くのか引渡しの時期に置くのかがはっきりしないと、注文者の検査が遅れたせいで引渡しが後ろにずれた日数まで、請負人の工期遅延として損害金を請求されかねません。工期は「完成通知の日」で判断し、完成通知から引渡しまでの期間は、請負人が検査や修補の期限を守っている限り工期遅延に含めない、と書き分けておけば、この争いを避けられます(工期遅延の損害金・責任上限・保険)。
検査の記録の残し方も、条文と運用の両方で決めておきます。検査の日時、立会者、指摘事項、修補の期限を検査記録に書き、双方が確認する運用にしておけば、後から「検査で指摘したのに直っていない」「指摘されていない箇所を後で言われた」という争いを減らせます。メールで記録を送る場合は、到達の記録が残る方法を使います。
軽微な不具合を理由に代金全額を止められないために
検査で小さな傷や手直し箇所が見つかったとき、注文者が「直るまで引渡しを受けない」「残代金は払わない」と言い出すことがあります。修補に代わる損害賠償の請求権と報酬の請求権は同時履行の関係に立つと解されており、注文者がこれを理由に報酬の支払を拒む主張をすることは珍しくありません。不具合の程度に比べて支払を拒む額が大きすぎれば信義則の問題になり得ますが、そこを争うには時間がかかります。
そこで、検査と引渡しの条項で「使用に支障のない軽微な不適合は、引渡しを拒む理由にならない」「引渡し後に修補する」と定めておきます。外構工事の契約書では、軽微な手直しは引渡しの拒否や残代金の支払拒否の理由にならない、7日以内に検査結果の通知がなければ引渡しがあったものとみなす、使用を開始したら残代金の支払義務が生じる、という組合せにしていました。なお、引渡し後の修補を約束しても、それで注文者の契約不適合責任上の権利がなくなるわけではありません。検査に合格したことが不適合の主張を妨げないことは、むしろ明記したほうが条項全体の公平さが伝わります。
REV.事務所の改訂例 検査・引渡し・竣工払の組合せ
1検査の時期
理由検査の期限がないと、検査を延ばすだけで支払が止まる。19条1項11号の「時期」の記載にもなる。
2引渡しの時点
理由注文者の行為だけで引渡しの時点が決まると、受領印を押さないことで支払を先送りできる。
3注文者の遅延
理由定めがなければ民法404条の法定利率による。請負人が全額を立て替える構造では、遅延の抑止力が必要。
支払期日を「引渡しの完了後30日以内」のように引渡しから数える場合は、引渡しのみなし規定があることで初めて期日が確定します。引渡しの時点が注文者の受領印だけで決まる契約では、受領印が押されない限り30日の起算が始まりません。反対に、みなし規定を置いて引渡しの時点を客観的に決められるようにしておけば、支払期日も、遅延損害金の起算日も、契約不適合責任の期間の起算日も、同じ一つの日付から決まります。検査・引渡しの条項は、支払・遅延損害金・保証期間の条項の起点をそろえる役割も持っているのです(代金の支払設計)。
部分引渡しと部分使用:条文がないと実務が宙に浮く
改修工事では、フロアごと、区画ごとに完成させて先に引き渡すことがよくあります。依頼者への確認で「部分的に先に引き渡すことがある」と分かったのに、草案に部分引渡しの条文がなかった例がありました。部分引渡しの条文がないと、先に引き渡した部分の所有権や危険がいつ移るのか、契約不適合責任の期間はいつから数えるのか、その部分の代金をいつ請求できるのかが、すべて契約全体の引渡しを待つことになりかねません。
条文例
第○条(部分引渡し及び部分使用)
- 甲乙は、工事の完成前に、別紙に定める部分(以下「引渡部分」という。)ごとに検査及び引渡しを行うことができる。この場合、第○条(検査及び引渡し)の規定を引渡部分について準用する。
- 引渡部分の引渡しが完了したときは、当該部分の所有権及び危険は甲に移転し、当該部分の契約不適合責任の期間は当該引渡しの日から起算する。
- 乙は、引渡部分の引渡しを受けたときは、別紙に定める当該部分の代金を請求することができる。
- 甲は、引渡し前の部分を使用しようとするときは、あらかじめ乙の書面等による承諾を得なければならない。甲は、承諾を得て使用した部分に生じた損傷について、その修補の費用を負担する。
4項の部分使用は、まだ引き渡していない部分を、請負人の承諾を得て注文者に一時的に使わせる場面です。前の節の「承諾のない使用開始は引渡しとみなす」と合わせて読むと、承諾を得た部分使用は引渡しではない、承諾のない使用は引渡しとみなす、という区別になります。この区別を条文の中で明確にしておかないと、二つの条項が互いに打ち消し合う形になるので、事務所では「前条第6項の規定は、本条第4項の承諾を得た使用には適用しない」といった調整の一文を入れています。
所有権の移転と代金完済前の処分の禁止
工事の目的物の所有権がいつ注文者に移るかは、契約書で決めておくのが安全です。改修工事で既存の建物に取り付けた部分は、民法242条により建物に付合し、建物の所有者のものになるのが原則です。それでも、引渡しまでは注文者に勝手に使わせない、代金を完済するまでは目的物を譲渡したり担保に入れたりさせない、という約束は契約でできます。
注文者が建物の賃借人である場合は、さらに注意が要ります。テナントの内装工事で取り付けた設備や造作は、付合によって貸主のものになることがあり、注文者が退去してしまえば、請負人は未払代金の回収の手がかりを失います。事務所の改訂では、注文者が賃借人で退去する場合は、返還日までに請負代金の全額を支払うと定めました。建物の所有者と賃借人のどちらが注文者なのかがはっきりしない案件では、どちらの場合にも働くように貸主の承諾の条項とあわせて書いています(第三者損害・近隣・テナント・石綿・廃棄物)。
条文例
第○条(所有権の移転等)
- 目的物の所有権は、引渡しが完了した時に甲に移転する。既存の建物に付合した部分についても、甲は、引渡しが完了するまでは乙の承諾なくこれを使用してはならない。
- 甲は、請負代金の全額を支払うまでは、目的物を第三者に譲渡し、担保に供し、又は第三者に引き渡してはならない。
- 甲が本件建物の賃借人である場合において、請負代金の支払の完了前に本件建物を明け渡すときは、甲は、明渡しの日までに請負代金の全額を乙に支払う。
所有権の移転と並んで、危険の移転、つまり引渡し前後に目的物が滅失・損傷したときに誰が負担するかも、引渡しの時点に結びつけておきます。改訂例では、引渡し前の滅失・損傷は不可抗力による損害(別条で注文者負担と定めた部分)と注文者の責めに帰すべき事由によるものを除き請負人の負担、引渡し後は請負人の責めに帰すべき事由によるものを除き注文者の負担、としました。引渡しの時点がみなし規定によってはっきり決まるようにしておけば、危険の移転の時点もはっきりします(不可抗力・価格変動・工事の中止)。
業種ごとの書き分け
検査・引渡しの業種別の工夫
| 工事の種類 | 条文の工夫 | ねらい |
|---|---|---|
| 改修工事(事業者向け) | 完成通知から7日以内の検査、みなし合格、合格から3日以内の引渡書、軽微な不適合で引渡し拒否不可、承諾のない使用開始は引渡しとみなす、部分引渡し | 支払の先送りの余地をなくす |
| 墓石の建立工事(消費者向け) | 完成通知から7日以内に検査、具体的な理由を示した異議がなければ合格とみなす。合格は不適合責任の権利に影響しないと明記。代金全額と引換えに引渡し。引渡し前に納骨・開眼供養等の使用を始めたら引渡しとみなす | 代金未払のまま納骨・供養だけが行われる事態を防ぐ。消費者の権利を不当に狭めない |
| 外構工事(消費者向け) | 軽微な手直しは引渡し拒否・残代金支払拒否の理由にならない、7日以内に結果の通知がなければ引渡しとみなす、使用開始で残代金の支払義務 | 完成後の長期の支払留保を防ぐ |
| 協力会社への発注(発注者側) | 検査期日の定めがないときは完了通知から20日以内に検査 | 建設業法24条の4の数字を自主的に取り込み、協力会社側の予測可能性を確保 |
消費者向けの契約では、「みなし合格」や「みなし引渡し」が、施主の権利を一方的に制限する条項と受け取られないように配慮が要ります。墓石の契約書で「具体的な理由を示した異議がなければ合格とみなす」としたのは、施主が理由を示して異議を述べれば合格にはならないことを明らかにし、合格したことが契約不適合責任上の権利に影響しないことも明記して、消費者契約法10条との関係で説明しやすくするためです。
ご相談と回答 検査と引渡し
施主が検査の日程を決めてくれず、残金の請求ができません。
契約書に検査の期限とみなし合格の定めがあれば、期限の経過で合格・引渡しの扱いになります。定めがない契約では、書面で検査の実施を求め、到達の記録を残します。次の契約からは、完成通知から何日以内に検査、という期限を必ず書きます。
テナントが引渡し前に勝手に使い始めました。
承諾のない使用開始を引渡しとみなす条項があれば、使用開始の時点で引渡しがあったことになり、代金の支払期日が進みます。使用開始の事実(日時・場所・写真)を記録し、書面で通知しておきます。
フロアごとに先に引き渡す場合、契約書には何を書けばよいですか。
引渡部分の特定、部分ごとの検査と引渡し、所有権と危険の移転、契約不適合責任の期間の起算、部分ごとの代金の支払、を書きます。承諾を得て使う部分使用は引渡しと区別し、損傷の負担を定めます。
ヒヤリングで確かめること
ヒヤリング点検表 検査・引渡し
- 代金の支払は全額竣工払か、前払・中間払があるか。竣工払の比重が大きいほど、検査・引渡しの条項の重要度が上がる。
- 施主側の検査の担当者は誰か。立会いの日程はどう決めているか。検査の方法と、期限の起算点を決める。
- 区画ごと・フロアごとに先に引き渡すことはあるか。部分引渡しの条項の要否を決める。
- 引渡し前にテナントや施主が使い始めることはあるか。承諾のない使用の扱いと、部分使用の承諾制を書く。
- 注文者は建物の所有者か賃借人か。所有権の帰属と、退去時の支払の定めの要否を決める。
- 過去に、小さな不具合を理由に支払を止められたことはあるか。軽微な不適合と引渡し拒否の関係を厚く書く。
起きがちなこと:支払を遅らせる「三つの穴」
検査・引渡し・竣工払の条項は、一つひとつは短い文章ですが、どこかに穴があると、そこから支払が漏れていきます。最後に典型をまとめます。
よくあるご質問
施主が検査の日程を決めてくれない場合、どうすればよいですか?
契約書に「完成通知から7日以内に検査を行い、期間内に検査も結果の通知もなければ合格とみなす」といった定めがあれば、期限の経過で合格の扱いになります。発注者と元請の間には建設業法上の検査期限がないので、契約書で期限を決めておくことが重要です。
小さな傷を理由に、残金を全額払ってもらえません。
使用に支障のない軽微な不適合は引渡しを拒む理由にならず、引渡し後に修補する、と契約書に定めておくのが予防になります。修補に代わる損害賠償と報酬は同時履行の関係に立つと解されているため、条項がないと支払拒否の主張を受けやすくなります。
引渡しを「施主が受領印を押した時」とするのは問題ですか?
注文者の行為だけで引渡しの時点が決まると、受領印を押さないことで代金の支払期日を先送りできてしまいます。合格から一定期間内に引渡書を交付し、交付がなければ期間の満了で引渡しがあったものとみなす、という定め方が安全です。
元請と下請の間の検査には、法律上の期限がありますか?
建設業法24条の4第1項により、元請負人は下請負人から完成の通知を受けた日から20日以内で、かつ、できる限り短い期間内に検査を完了しなければなりません。ここでいう元請負人は、下請契約の注文者で建設業者であるものです。
フロアごとに先に引き渡す場合、契約書に何を書けばよいですか?
引渡部分の特定、部分ごとの検査と引渡し、所有権と危険の移転、契約不適合責任の期間の起算、部分ごとの代金の支払を書きます。請負人の承諾を得て一時的に使う部分使用は、引渡しと区別して損傷の負担を定めます。
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