このページの要点
- 500万円以上の工事で前金払を定めると、注文者は保証人を立てるよう請求でき、立てなければ前金払をしないことができる(建設業法21条)。
- 遅延損害金は催告の有無を問わず期日の翌日から発生させ、「5営業日」は解除・施工中止のための催告期間に使う。
- 代表者の連帯保証で追加工事代金や損害金まで含めるなら、極度額を定め、情報提供(民法465条の10)を受けた旨を確認する。
- 消費者向けでは全額の支払期限をクーリング・オフ期間より後にし、予約金は実費精算型にする。
結論:支払の設計は「いつ・いくら・遅れたらどうなる・誰が保証する」を一組で
工事代金の支払条件は、請負人にとっては資金繰りそのもので、注文者にとっては出来上がりに見合った支払かどうかの問題です。前払(着手金)をどれだけ取るか、中間金を何に連動させるか、竣工時にいくら残すか、支払が遅れたらどうなるか、法人の注文者の代表者に保証してもらうか。これらはばらばらに決めるのではなく、一組で設計する必要があります。
建設業法19条1項は、2号で請負代金の額、5号で前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときはその支払の時期及び方法、12号で工事完成後の支払の時期及び方法、14号で各当事者の遅延利息・違約金その他の損害金を、記載事項としています。支払の設計は、そのまま19条の記載事項の設計でもあります(建設業法19条の記載事項)。
このページでは、前金払と保証人の請求、中間金と出来形部分払、全額竣工払の場合の手当て、遅延損害金と催告、代表者の連帯保証、消費者向けの支払時期、長期案件の予約金、印紙税までを、事務所の改訂例とともに整理します。
前払(着手金):建設業法21条の保証人の請求に注意
着手金や前払金は、資材の手配や職人の確保に必要な資金を請負人が先に受け取るための仕組みです。ただし、建設業法21条1項は、請負代金の全部又は一部の前金払をする定めがなされたときは、注文者は建設業者に対して、前金払をする前に保証人を立てることを請求できると定めています。保証人は、建設業者の債務不履行の場合の遅延利息・違約金その他の損害金の支払の保証人か、建設業者に代わって自らその工事を完成することを保証する他の建設業者です(同条2項)。建設業者が保証人を立てないときは、注文者は契約の定めにかかわらず前金払をしないことができます(同条3項)。
この規定は、工事一件の請負代金の額が500万円に満たない軽微な工事には適用されません(同条1項ただし書、建設業法施行令6条の3)。また、公共工事の前払金保証事業に関する法律に規定する保証事業会社の保証に係る工事も除かれます。規模の大きな工事で前金払を定める場合は、注文者がこの請求権を、着手金の支払を留保する根拠として持ち出す可能性があることを知っておく必要があります。
支払方式の比較
| 方式 | 請負人から見た長所 | 注意点 |
|---|---|---|
| 契約時金・中間金・完成時金の三段 | 資金の立替えが小さい | 中間金を日付で固定すると進捗と連動せず、「出来高に見合わない」と争われやすい |
| 出来形部分払 | 進捗に応じて回収できる | 出来形の確認方法(写真・数量・査定の期限)を決めておく |
| 全額竣工払 | 契約時の交渉が簡単 | 代金の全額を立て替える。検査・引渡しの条項と遅延損害金が生命線 |
| 予約金・着工金・完工金(長期案件) | 着工まで期間が空いても資材や職人を確保できる | 予約金を違約金として当然に没収する定めは、とくに消費者向けで効力を争われやすい |
中間金を「○月○日に請負代金の30%」のように日付で固定する書き方は、工事が遅れたときに「まだその段階に達していないのに払えない」、早く進んだときに「もう半分以上できているのに中間金が少ない」という食い違いを生みます。改修工事のように工程が読みにくい工事では、出来形部分払として、一定の工程の完了や出来形の割合に応じて支払う形を選ぶことも検討します。出来形部分払を選ぶなら、出来形をどう確認するか(写真、数量の報告、注文者の確認の期限)までを書きます。
遅延損害金と催告:「処罰」の代わりに置く三つの仕組み
依頼者から「支払が遅れた施主に処罰のようなものを課したい」という要望を受けることがあります。違約金を高額に定める方法もありますが、民法420条3項により違約金は賠償額の予定と推定されます。賠償額の予定とは別の制裁としての違約罰も、事業者どうしの契約であれば定めること自体は可能ですが、実際の損害と大きくかけ離れていれば公序良俗に反するとして減額されたり、無効とされたりする余地があります。
事務所の改訂では、「処罰」の代わりに、遅延損害金、催告による解除と施工の中止、代表者の連帯保証の三つを組み合わせました。遅延損害金は、催告や通知の有無を問わず支払期日の翌日から自動的に発生させます。依頼者の当初の考えでは「期日超過後に連絡し、その連絡から5営業日以内に支払がなければ」遅延損害金が生じる形でしたが、それでは連絡を忘れた日数の分だけ損害金が発生しません。「5営業日」は、遅延損害金の発生要件ではなく、解除や施工中止に進むための催告期間として使います。
条文例
第○条(支払遅延)
- 甲が請負代金の支払を遅延したときは、甲は乙に対し、催告又は通知の有無にかかわらず、支払期日の翌日から支払済みまで、未払金額に対し年14.6パーセントの割合による遅延損害金を支払う。
- 乙は、甲が請負代金の支払を遅延したときは、5営業日以上の期間を定めて書面等により支払を催告することができる。甲がその期間内に支払わないときは、乙は、本契約を解除し、又は工事の施工を中止することができ、施工の中止に伴い生じた費用は甲の負担とする。
- 本契約において「営業日」とは、土曜日、日曜日、国民の祝日に関する法律に定める休日及び12月29日から翌年1月3日までの日以外の日をいう。
- 本契約に基づく通知、催告その他の連絡は、書面又は電子メールその他到達を証明することができる方法により行う。
年14.6%は一例です。事業者どうしの契約では当事者の合意で率を定めます。注文者が消費者の場合、支払遅延の損害賠償の予定は年14.6%を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項2号)。
「営業日」を定義しておくのは、催告期間の数え方で争いにならないようにするためです。土日祝や年末年始を含めるかどうかで期限が数日ずれ、「まだ期限が来ていないのに解除された」という主張の余地が生まれます。同じ理由で、連絡の方法も「到達を証明できる書面・メール」と定めておきます。電話や対面の口頭の連絡だけでは、催告をした事実そのものを示すのが難しくなるからです。
代表者の連帯保証:極度額と情報提供の確認を忘れない
法人の注文者に対し、代表者個人に連帯保証人になってもらうことは、支払の確保の手段として有効です。ただし、保証の範囲を請負代金だけでなく、追加工事の代金や遅延損害金まで含めると、主たる債務が契約時点では確定しない「根保証」になります。保証人が個人の根保証(個人根保証契約)は、極度額を定めなければ効力を生じません(民法465条の2第2項)。
また、事業のために負担する債務の保証を個人に委託するときは、主たる債務者(注文者の法人)は、財産及び収支の状況、主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況、他に提供している担保の有無と内容を、保証人になる人に情報提供しなければなりません(民法465条の10第1項)。この情報提供がされず、又は事実と異なる情報が提供されたために保証人が誤認して保証した場合で、債権者がそれを知り又は知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消せることがあります(同条2項)。
条文例
第○条(連帯保証)
- 丙(甲の代表者)は、甲が本契約(追加変更工事に係る契約を含む。)に基づき乙に対して負担する一切の債務について、甲と連帯して保証する。
- 丙の保証の極度額は、金_____円とする。極度額の記載がないときは、請負代金額の合計額の2倍に相当する額を極度額とする。
- 丙は、本契約の締結に先立ち、甲から民法第465条の10第1項各号に掲げる事項について情報の提供を受けたことを確認する。
- 乙は、丙の請求があったときは、遅滞なく、甲の債務の履行状況に関する情報を丙に提供する。
- 丙が甲の代表者の地位を退いた後も、本条の保証は存続する。
4項は、委託を受けた保証人の請求に応じて債権者が主たる債務の履行状況を情報提供する義務(民法458条の2)を条文にしたものです。
極度額を「記入式」にしたうえで、記入がないときの既定値を置いたのは、極度額欄が空欄のまま調印されてしまう事故を避けるためです。極度額の定めがない個人根保証は効力を生じないので、空欄のまま調印すれば保証の条項が丸ごと無意味になります。
消費者向けの支払時期と、長期案件の予約金
個人の施主との契約では、支払時期の定め方に特有の注意点があります。水回りリフォームの契約書のレビューでは、「契約締結日から7日以内に全額を前払する」という条項が問題になりました。施主の自宅で契約する訪問販売に当たる場合、施主は契約書面を受け取った日から起算して8日を経過するまではクーリング・オフができます(特定商取引法9条1項)。全額の支払期限がクーリング・オフ期間より先に来ると、施主はクーリング・オフを考える前に代金を払い終えることになり、トラブルの元になります。改訂では、別紙に定めがない場合の支払時期を「引渡しの完了後で、かつ、契約書面の受領日から9日を経過した後」とし、前払を受けた場合もクーリング・オフのときは全額を返還することを確認する条項を置きました(リフォームの訪問販売とクーリング・オフ)。
着工まで数か月空く外構工事などの長期案件では、通常の契約金・完工金の二段とは別に、予約金・着工金・完工金の三段の方式を用意した契約書もありました。入金を確認するまでは資材の発注や職人の手配をする義務を負わず、工期は入金確認日を基準に決まる、という組み立てです。一方で、予約金を「違約金として当然に没収する」とは書かず、解約のときは現に発生した費用の範囲で精算する形にしています。消費者契約法9条1項1号は、解除に伴う損害賠償の予定や違約金のうち、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効としているからです。
REV.事務所の改訂例 支払条項の書き分け
1消費者向けの前払
理由支払期限がクーリング・オフ期間より先に来ないようにし、前払時の返還義務を明確にする。
2長期案件の予約金
理由平均的な損害を超える部分は無効になり得る(消費者契約法9条1項1号)。実費精算型にする。
3遅延損害金の起算
理由連絡を要件にすると、連絡が遅れた日数分の損害金が生じない。
印紙税と、支払条項の周辺で確かめること
建設工事の請負契約書は、印紙税法上の請負に関する契約書(別表第一の第2号文書)に当たります。建設業法2条1項に規定する建設工事の請負に係る契約に基づき作成されるもので、記載された契約金額が100万円を超えるものは、令和9年3月31日までに作成されるものについて、税率の軽減措置があります(租税特別措置法91条2項)。消費税額が区分して記載されていれば、税抜きの金額が記載金額になる扱いがあります。契約書を2通作成して双方が1通ずつ保管する場合は、各通がそれぞれ課税文書になり、それぞれに印紙が必要です。追加工事の変更契約書も、増額分を記載金額として課税されます。
一方、施工管理のような準委任の業務委託契約書は、仕事の完成を約する文言がなければ請負に関する契約書に当たらないとされます。この点は施工管理の業務委託契約書で扱います。
下請に出す側の前払と、記入欄の工夫
元請として工事を受け、その一部を下請に出す立場では、発注者から受け取る前払金と、下請に支払う代金の関係も意識しておく必要があります。建設業法24条の3第3項は、元請負人が前払金の支払を受けたときは、下請負人に対して、資材の購入、労働者の募集その他建設工事の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならないと定めています。同条1項は、元請負人が出来形部分に対する支払又は工事完成後の支払を受けたときは、下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、支払を受けた日から1か月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならないとしています。ここでいう元請負人は下請契約の注文者で建設業者であるものなので、許可を受けた事業者が下請に出す場面の規律です(下請・協力会社・一人親方との契約)。
消費者向けの契約書では、支払条件を契約ごとに書き込める記入欄の形にしておくと、営業の現場で使いやすくなります。墓石の建立工事の契約書では、契約時金・中間金・完成引渡時金の三段の記入欄を設け、支払が遅れたときは催告のうえで施工を中止でき、その間の工期は延長される、という条項と組み合わせました。外構工事の契約書では、入金を確認するまでは資材の発注や職人の手配をする義務を負わず、工期は入金確認日を基準に定まる、と書いています。どちらも、支払の遅れが請負人の工期遅延の責任にすり替わらないようにするための定めです。
ご相談と回答 支払条件
着手金は何割まで取ってよいですか。
法律で上限が決まっているわけではありません。ただし500万円以上の工事で前金払を定めると、建設業法21条により注文者が保証人を立てるよう請求でき、立てなければ前金払をしないことができます。消費者向けでは、クーリング・オフ期間との関係や、解約時の精算の定め方にも注意します。
法人の施主の代表者に保証してもらうとき、何に気をつければよいですか。
追加工事や損害金まで保証の範囲に含めるなら個人根保証になり、極度額の定めがなければ効力を生じません。事業のための債務の保証なので、施主から保証人への情報提供(民法465条の10)を受けたことの確認も入れておきます。
遅延損害金は何%まで定められますか。
事業者どうしでは当事者の合意で率を定めます。注文者が消費者の場合は、支払遅延の損害賠償の予定のうち年14.6%を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項2号)。率を定めないと民法404条の法定利率によります。
ヒヤリングで確かめること
ヒヤリング点検表 支払の設計
- 一件の請負代金はどのくらいか。前金払を定めるか。500万円以上の工事で前金払を定めると、建設業法21条の保証人の請求が問題になる。
- 中間金は日付で決めているか、工程に連動させているか。出来形部分払の方式と、出来形の確認方法を検討する。
- 注文者は法人か個人か。法人なら代表者の保証を求めるか。連帯保証の条項と極度額、情報提供の確認を書く。
- 過去に支払が遅れたとき、どう対応したか。遅延損害金の起算、催告期間、施工中止の定めを決める。
- 施主の自宅で契約することはあるか。クーリング・オフ期間と支払時期の関係を確認する。
- 着工まで長く空く案件はあるか。予約金を受け取っているか。予約金の精算の定めを決める。
- 契約書は紙で何通作るか、電子契約か。印紙税の扱いを確認する。
起きがちなこと:支払条件は「遅れた日」に効く
支払条件の条項は、順調に入金されている間は誰も読み返しません。読み返されるのは支払が遅れた日、施主が「まだ払わない」と言った日です。最後に事務所が見てきた典型をまとめます。
よくあるご質問
工事の着手金(前払金)は、何割まで受け取れますか?
法律で割合の上限は決まっていません。ただし請負代金500万円以上の工事で前金払を定めると、建設業法21条により注文者は前金払の前に保証人を立てるよう請求でき、立てなければ前金払をしないことができます。消費者向けでは、クーリング・オフ期間との関係と解約時の精算の定めにも注意します。
工事代金の遅延損害金は、何%まで定められますか?
事業者どうしでは当事者の合意で率を定めます。注文者が消費者の場合、支払遅延の損害賠償の予定は年14.6%を超える部分が無効です(消費者契約法9条1項2号)。定めがなければ民法404条の法定利率によるため、注文者の支払遅延の率も契約書に置いておきます。
法人の施主の代表者に連帯保証を求めるときの注意点は?
追加工事代金や損害金まで含めると個人根保証になり、極度額を定めなければ効力を生じません(民法465条の2第2項)。事業のための債務の保証なので、施主から保証人への情報提供(民法465条の10)を受けたことの確認と、代表者を退いた後の扱いも書いておきます。
長期案件の予約金は、解約されても返さなくてよいですか?
予約金を違約金として当然に没収する定めは、消費者向けでは平均的な損害を超える部分が無効になり得ます(消費者契約法9条1項1号)。解約時は現に発生した費用を控除して残額を返還する、実費精算型の定めにしておくのが安定した書き方です。
建設工事請負契約書の印紙税に軽減措置はありますか?
建設工事の請負に係る契約に基づき作成される契約書で、記載金額が100万円を超えるものは、令和9年3月31日までに作成されるものについて税率の軽減措置があります(租税特別措置法91条2項)。2通作成すれば各通に印紙が必要で、変更契約書も増額分に課税されます。
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